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​ 太田博ー詩人の生涯

​◎幼少時代

太田博は大正10年(1921)1月21日に​東京渋谷区に、父芳松母てふの三男としてうまれた。昭和5年子供がいない伯父恒吉の養子となり、福島県郡山市金透小学校に転校する。恒吉は皇宮警察に勤務していたが、退職後は故郷の郡山で暮らしていた。実父は郵便局に勤務していたが、銚子郵便局長への転勤に伴い、実家は千葉県銚子に転居した。たまたま銚子は母てふの実家が​ある街であり、網元として漁業に従事していた。

​左からー博、正、芳樹、

    克、綾

◎郡山商業学校時代

昭和8年小学校卒業後、郡山市立郡山商業学校に入学。詩文の才能豊かな博は、一年入学後から校友会誌に投稿を続けている。二年生のころに学校の先輩の丘灯至夫の主宰する、文芸誌「蝋人形」郡山支部に入会し詩人としての歩みを始めた。

旧校舎映像・E.jpg

太田博が学んだ郡山商業学校校舎

​◎ミスアンダーソンとの出会い ​

郡山の自宅の近所には、アメリカ福音教会系の宣教師館があり、昭和10年に当時35歳のアイリーン・アンダーソンが宣教師として赴任してきた。白亜の宣教師館と新任の女性宣教師という地方都市には珍しい西洋文化の香りに惹かれるように、いつしか博は足繁く宣教師館に通うようになっていた。しかし、養父の恒吉は皇宮警察に勤務していたこともあり、厳格な性格でもあったことからキリスト教に接触することには強く反対しており、父と子の間には強い葛藤があった。

​◎詩誌「蒼空」文芸誌「蝋人形」への投稿

昭和十三年郡山商業学校を卒業した太田博は地元の郡山商業銀行(現・東邦銀行)に就職した。忙しい勤務をこなしながら、詩作に勤しみ、丘灯至夫の主宰する詩誌「蒼空」や、総合文芸誌「蝋人形」などに次々と詩作を発表した。中でも「蝋人形」は有名詩人西條八十主宰の全国誌であり、日本中の文学を志す青少年が競って投稿する実力誌であったが、昭和十六年にかけて太田の作品の多くは入選作として「蝋人形」誌上に発表された。

   殺 意

           谷 玲之介

 

灼(や)けた砂をまさぐれば

ゆくりなく 掌に觸れた

蒼白く發光する貝殻

 

耐えがたい潮騒の聲が

耳朶(みみ)ちかく燃えた

黝々(くろぐろ)と星座がもえくづれた

(何故あなたは眸を反けたか)

ああ ほのかにくるめくものゝなかで。

     

  詩誌「蒼空」昭和十五年六月号

ミスアンダーソンとバイブルクラスの仲間たちー壁際前から3人目が博
​(昭和9年頃と思われる)

蝋人形郡山支部・昭和10年7月、​前列中央が丘灯至夫、左が西條八十、右黒学生服太田博

​銀行員時代

​◎徴 兵 検 査 と 入 営

昭和16年20歳の節目を迎え、徴兵検査を終えた太田博はやがて来るべき入営通知に、心身を引き締めていた。自分への鎮魂歌とも思える詩を作り軍人となる意思を固めていった。昭和十七年1月、千葉県柏の陸軍高射砲第二連隊に入営した。第一期検閲の際に選抜されて、甲種幹部候補生として千葉にある千葉陸軍防空学校に入校した。

      墓 碑 銘

                            

  うづめよ落ち葉 若き日の

  愛知りそめし 人の名を。

 

  つもれよ粉雪 わが頬の

  熱きなみだの 凍るまで。

 

  かくては春も めぐるころ

  名なき雜(あれ)草 生ひいでむ。

 

  ひらけよ小さき 花をもて

  未完の詩句を 刻ましめ。

 「蝋人形」第十二巻九号(昭和一六年九月号)

​陸軍防空学校時代

​◎陸軍防空学校卒業と沖縄志願

昭和17年10月26日防空学校卒業と同時に、防空第六連隊に配属され東京周辺の防空任務に就き、昭和18年12月少尉に任官した。昭和19年陸軍は米軍の侵攻が予期される沖縄戦に備えて新たに軍を編成し、7月千葉県国府台にて野戦高射砲第79大隊を編成した。太田博は自ら志願して大隊に編入され、​第二中隊指揮小隊長を命ぜられた。7月23日国府台を出発した大隊は

​7月30日門司港の輸送船団に乗船を開始した。

入営時から防空学校さらに東京都防衛に当たっていた当時の詩集、

 「鎧と花」入営当時から防空学校時代の詩集

 「兜と花」防空学校卒業後の詩集

の二詩集は逸失して、その所在は現在も不明となっている。

​生涯で最後の詩集「剣と花」は沖縄に赴任中に作成され、最後の引揚げ船に託されて奇跡的に本土にたどり着いた。

      訣 別 の 詩

    ―決戰の空に急ぐ征途の遺書として―

               谷 玲之介

 

   何處ぞ    鐡と炎もて

   鋼(はがね)なす詩の  一聯を

   地球削りて  刻まんず。

 

   成層圏の   高みより

   わが肉(ししむら)を 碎きつゝ

   砂礫となさむ 白き骨。

 

   鮮血のいろ  新たなる

   生命の花の  ひらくとき

   聞かずや   猛き頌歌(ほめうた)を

 

   言葉にあらで 銀翼に

   嵐孕(はら)みし   一瞬時

   丈夫(ますらお)のみち  極めなむ。

 

 「蝋人形」最終巻

     第十五巻二号(昭和一九年二月号)